2011年6月30日木曜日

黒い雨にうたれて

中沢啓治の漫画「黒い雨にうたれて」(ディノボックス)を読みました。

市立図書館で初めて借りた「漫画」です。中沢啓治といえば、「はだしのゲン」があまりに有名。小学生や中学生にも大人気です。私の勤めていた小学校の図書室の本は表紙がぼろぼろになっていました。子どもが休み時間に読んでいる姿もよく見かけました。妻が勤めていた中学校でもそうだったようです。ぼろぼろになっていて、何回もくりかえし読んでいた生徒もいたとのこと。


映画化されたり、アニメ化されたり、テレビドラマとして放映されたり、何カ国語にも翻訳されたりして、原爆の恐ろしさを今の世代に伝える大きな役割を果たしています。

中沢啓治が初めて「原爆漫画」を描いたのが「黒い雨にうたれて」なのだそうです。「あとがき」に次のように書いてあります。
東京に出て五年目の春、広島から「ハハ、シス、スグカエレ」の電報を受けとりました。火葬にされた母の骨を拾おうとしたところ、私は呆然となりました。灰ばかりで、骨がないのです。=略=原爆は、最愛の母を、21年後に奪っただけでなく、母の骨さえも奪ったのです。悲しみと怒りがこみあげてきました。このうらみをはらしてやるぞ!と決意しました。

母の死をきっかけに原爆漫画を描き始め、「黒い雨にうたれて」が誕生し、その後「はだしのゲン」へと結実していったのです。


この本には表題作以外に「黒い川の流れに」「黒い沈黙の果てに」「黒い鳩の群れに」などの8つの作品が収録されています。

「はだしのゲン」は作者の体験を元にした実話に近い漫画なので読み応えがあり、感銘も受けましたが、今回読んだ作品は私の「好み」には合いません。ほとんどが大人向けの二流コミック誌に掲載された作品で、いろんな制約があったのかもしれませんが、ひと言でいうとチャチなのです。

アメリカ人のみを標的にする殺し屋、アメリカ人相手に梅毒に感染させることをねらう売春婦、浮浪者になった元教師と殺人を犯した教え子、妹を売春させ、そのヒモとなる兄が刺し殺される…こんな話ばかり。共通するのは原爆症であったり、原爆二世としてひどい「差別」を受けること。重いテーマをもった作品なのに、人間描写が雑で単純化しすぎているのです。


作者の「核と戦争がにくい」という思いが空回りしているように思えてなりません。あとがきに「核兵器は、依然、超大国が保有し、周辺諸国も核開発をすすめ、原子力発電は、世界各地で稼働しています。放射能汚染は深刻な問題です。」と書いている作者の主張には共感するのですが…。

「はだしのゲン」はお薦めに値する漫画ですが、この本は…??? 糖尿病のために目を悪くされ、無念のリタイアをされた作者には申し訳ないのですが…。
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