2011年4月6日水曜日

誤差

松本清張短編全集9「誤差」(光文社)を読みました。
「全集9」には、昭和32年から35年にかけて発表された7つの短編が収録されています。

最も印象に残った作品は「真贋(しんがん)の森」。清張作品には「美術」を扱った作品がいくつもあります。清張はいわゆる「アカデミズム」(伝統的秩序や権威を尊重し、研究や創作活動の純粋性、正統性を保持しようとする傾向)に対して強烈な批判精神を持っている作家でした。

東京帝大で美術を学んだ主人公が、美術界の大物に排斥され、名もない田舎の画家に贋作を描かせて復讐を企むという小説。個々人の感性に委ねられるべき芸術が、「権威」によって左右されることへの告発的な内容を含んでいます。

同じく画家を扱った「装飾評伝」。清張自身があとがきで「“偉大なる人物”伝というたぐいには私は全面的な信頼をおいていない」、「資料も当人にとって都合の悪いところは、すてられるか、ぼかされてある」と書いていますが、このような視点から、著名な作家の知られざる一面を推理していくミステリー仕立ての短編。あまりにも短すぎる「短編」ですが、短いながらも謎解きのおもしろさを味わえる作品でした。


異色は「発作」。妻への愛情を無くし、競輪と情事にのめりこむサラリーマンのため込んだいらだちが、電車内で見知らぬ男に対する凶行へと…。清張作品には珍しい、ホラー的要素のある作品です。
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