2011年9月12日月曜日

海坂藩大全(上)

「たそがれ清兵衛」や「蝉しぐれ」などの映画やドラマでおなじみの「海坂藩」。もちろん架空の「藩」ですが、この「海坂藩」を舞台にした藤沢周平の短編小説ばかりを集めた「海坂藩大全・上」(文藝春秋)を読みました。

藤沢周平没後10年を機に「大全」としてまとめられたようです。

上巻には直木賞受賞作の「暗殺の年輪」、「相模守は無害」「唆す」「潮田伝五郎置文」「鬼気」「竹光始末」「遠方より来る」「小川の辺」「木綿触れ」「小鶴」の10編が収められています。

共通しているのは「海坂藩」で、時代は江戸の初期から末期まで多様です。主に下級武士とその家族(妻や娘)が主役となり、農民や町人の生活も描かれている良作ぞろいです。

直木賞受賞作「暗殺の年輪」や「潮田伝五郎置文」は藤沢周平の名を世間に知らしめることになった有名な短篇。また「「小川の辺」が今年映画化され、これらの作品が世間では大きな支持を受けているのでしょうが、私の一番のお気に入りは「木綿触れ」。

生後わずか三ヶ月のわが子を亡くした妻があることがきっかけで立ち直っていきます。それは、下級武士の妻の身分では手に入れることが困難だった「絹」の着物を夫から贈られ、手縫いで仕上げること。しかし、藩は財政難で倹約令を発し、下級武士とその家族は木綿しか着てはならぬとのお触れ(「木綿触れ」)が出されます。

着物が縫い終わった頃、妻の実家(富裕な百姓)で法事がが行われることになり、夫は妻に、絹の着物を実家に持っていって見せてきてはどうかと勧め、「絶対に着てはならぬ」と戒めて送り出します。ところが妻は禁制をやぶり、その絹を着てしまったことが悲劇に繋がることとなります…(続きは、お楽しみ…)。

結末は「悲劇」なのですが、この時代に生きた夫婦の絆の深さ、不正を許さない覚悟、周りの人々への思いやりなどがぎっしり詰まった作品でした。

その他の作品も「人間性」豊かな逸品ぞろい。長編のような読み応えはありませんが、どの短篇も引き込まれるような魅力があります。
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4 件のコメント:

  1. プリンのおばちゃん2011年9月12日 21:22

    きくさま。このとろこ、藤沢周平におハマリのようですね。
    数年前、片岡愛之助(誤字があったらゴメンナサイ)の
    「蝉しぐれ」を知人よりチケットをいただき、義母をお連れして道頓堀まで観にいきました。
    「婦道」・「武士道」良いものですよね。

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  2. 藤沢周平。どの作品も、またどなたの読後評もおおむね
    好評ですね。
    恐らく彼の考え方や人柄が万人に愛されているからでしょうか。そういうところ、ワタイとそっくりダ。
    ですから上のプリンのおばちゃんさんが、文中で、「このとろこ」、などとミスっているゾー、などと指摘したりはしまへん。
    ノーミス、もとい、ミスBON より。

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  3. プリンのおばちゃんさんへ

    藤沢周平の「あたたかさ」が気に入りました。
    文章が読みやすいのもグーッ!ですね。

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  4. MR.BONさんへ

    万人受けする作品が多いためなのか、テレビドラマや芝居に多くの作品がつかわれ、それがまた藤沢周平人気を高めていったのでしょうね。私はテレビドラマや芝居をほとんど見てないのでよくわかりません。

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