2011年6月14日火曜日

失われた弥勒の手 安曇野伝説

松本猛と菊池恩恵の共著「失われた弥勒の手 安曇野伝説」(講談社)を読みました。

本書は「小説」の形をとってはいますが、古代に朝鮮半島との交易、文化の受け渡しの役を担ってきた海人(あま)族である安曇族が日本海を利用して各地にわたり、信州の安曇野に移り住んだことを二人の作者が各地を歩いて研究した成果をまとめた論文ともいえるものです。

作者自身が「あとがき」で、「研究論文にまとめるにはあまりにも資料が少ないので、小説という形をと」ったと語っています。

この小説を読んでいて何カ所も違和感をおぼえました。主人公が父親の遺志を継いで各地を巡るという手法は成功しているように感じますが、本来が「研究論文」的なものを「小説」で表現しているため、「会話文」がぎこちないのです。そして決定的な弱点は二人の青年の“恋”を副次的に扱ったところ。

それ以外は、とても興味深く読み進めることができました。歴史、特に古代史に興味をお持ちの方にはお薦めの一冊です。

古代、九州王権がヤマト王権に敗れ、安曇族が各地に散ることとなります。その過程を主人公たちが追うために志賀島や対馬、そして韓国を訪れる場面は惹き付けられっぱなしで、一気に読まされてしまいました。

作者の一人松本猛が安曇野ちひろ美術館の館長で、私自身もちひろの絵を楽しむために訪れたこと、私の知人が白馬乗鞍でペンションを経営していて何度も(秋の景色だけは知りませんが)長野に足を運んだこと、よく知る場所が登場すること…なども読む楽しさを倍増させてくれました。
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2 件のコメント:

  1. カブトガニです、

    お父上が私と同じ歳にしてはお元気、何よりの事ですね。

    「失われた弥勒の手」とは昔広隆寺の国宝第一号「弥勒菩薩」の指を確か京大生か誰かが抱きつき菩薩の指を折った事件が有りましたが其れを指したタイトルなのでしょうか、
    この弥勒菩薩の素材は定かでは有りませんが朝鮮赤松と記憶していますので朝鮮からの到来物と思われます。

    朝鮮民族が木曾谷に定着して仏像・建築に寄与したと聞いた事が有ります。

    私は昭和40年前後仏像美術に嵌り10年間ほど毎週の様に奈良・京都・近江の寺寺を廻り写真を撮りまくったことがありました。

    いま考えればこれらの時間アコーディオンの勉強をしておけば少しは人様に知られるアコーディオン弾きになっていたかも知れません、私の欠点は練習、努力、精進、勉強、忍耐、などの言葉も嫌いなぐうたら・怠惰に生まれ付いていました。

    特に自分のバンドを持ってからは練習する時間も無く、50年間練習した事が無かったです。バカですね。

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  2. カブトガニさんへ

    コメント、ありがとうございます。
    残念ながら「指」を折った事件とは関係のない、百済伝来の仏像の失われた腕が本来どのような形であったかを題材にしている小説です。

    いわゆる渡来人によってさまざまな文化、仏教が伝えられ、第1次韓流ブームともいえる歴史が古代にあり、第2次が朝鮮通信使、そして今の第3次韓流ブームのことなどにも触れた小説でした。

    カブトガニさんの演奏を動画で聴かせていただき感銘を受けている私には、雲の上の人…。今後ともずっと弾き続けていただくため、体調にはくれぐれもご注意を…。

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