2011年6月2日木曜日

先生のあさがお

南木佳士の「先生のあさがお」(文藝春秋)を読みました。

表題作の「先生のあさがお」以外に「熊出没注意」「白い花の木の下」も収録されています。小説ではなく「自伝」。

医師としての勤務の傍ら作家活動を続ける作者自身が、第一線の臨床医生活により精神を患い、小説を書いたり、山歩きや水泳をする中ででかろうじて「安定」した生活をとりもどして以降の「自伝」です。

「熊出没注意」は、神経衰弱を病んだ彼のかわりに勤務した医師が7年後に死亡したことをめぐる回顧文。彼の墓参りを毎年欠かさず行う作者が、妻と一緒に泊まった古びた旅館での出来事が書かれています。

「白い花の木の下」は、結婚30年目の妻とのなれそめ、夫婦の歴史の一端を記したもの。

「先生のあさがお」は、子どもの頃になくなった母と同い年の先輩医師が育てていたあさがおの種を育てる話で、この「自伝」がもっとも心に響く内容でした。「種」の章に始まり、「双葉」、「本葉」、「蔓」、「花」、「採種」の章からなっています。。精魂傾けて育てようとした朝顔はうまく育たず、余った種を適当なところにまいて放っておくのですが、その朝顔が意に反してきれいに開花します。教訓めいたものを感じます。

人間の心情の描写や情景の描写が温かく、だれもが癒されるお薦めの本です。特に私のような年代のものには共感できる場面がたくさん登場します。医師ならではの視点で「生と死」「老い」を描く逸品です。読み終えたとき「心地よさ」を感じる作品です。
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