2011年5月2日月曜日

夏の魔法

「愛の挨拶」を読んで感銘を受け、ミステリーでない彼の作品をまた読もうと思っていました。先日、運よく図書館で見つけ、迷わず借りた本岡 類の「夏の魔法」(新潮社)を読みました。

舞台となるのは、那須高原。元エリートサラリーマンの高峰俊彦が、自身の「浮気」が原因で離婚。さらに癌を患い、再発の恐れとたたかいながら那須で畜産を営み始めます。

日本では珍しい放牧による酪農を行い、それが軌道に乗り始めた頃に4歳の時に別れたきりで会うことのなかった「引きこもり」状態にある19歳の息子、悠平を別れた妻から預かることになります。

約束を一切守らず、朝の仕事に起き出してこない悠平。態度を注意されるとキレて暴力をふるう悠平。そんな悠平が搾乳の時に糞便を頭から浴びたり、牛の出産に立ち会ったり、近くの牧場の若い研修生と交流を持ったり、キジ猟に連れて行ってもらったり…さまざまな体験をする中で少しずつ普通の若者に…。

いつも乳牛のことで教えを請うていた近所の森牧場の主に「牧場には人を育てる力がある」と励ましをうけながら、高峰俊彦は息子との関係を少しずつ修復していきます。そんなとき、一大事件が勃発します…。

よりよく生きることとは何か、という読者への投げかけを作品の中で行いながら、酪農が置かれている状況のこと、BSE問題のことも考えさせてくれる作品。

あまりにも予想どおりの悠平の成長ぶりに本当は喜ばなければならないのですが、話の展開がいい方向に向かい続けることに少し違和感をおぼえました。しかし、人と人との関係を温かく描くいい作品にはちがいありません。
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