2011年3月27日日曜日

ツキコの月

伊集院 静の長編小説「ツキコの月」を読みました。

大正から昭和にかけて、アルゼンチンへの移民者生活を起点に、日本そして満州へと舞台が移されていきます。主人公ツキコの波瀾に富んだ女優人生の始まりを描いた小説です。

この小説の「序章」と「エピローグ」に書かれている言葉が小説全体を象徴しているように思います。


「序章」で少女ツキコが父とタンゴを踊りながら聞かされた言葉、「これから先おまえがどんな人生を歩こうと、今夜私と二人で踊ったことを忘れないでおくれ。あの月が私たちを抱擁していたように、私もいつまでもおまえを抱きしめているからね。この月のようにかがやく女性になっておくれ。月の光のようにおまえのかがやきを誰かに与えておくれ」。


「エピローグ」でツキコが月を見上げながら亡き父に言った言葉、「お父さん、いつかあなたが月のようにかがやく女になって欲しいって言ったでしょう。私、女優になればかがやくものと思っていたけど、そうじゃないことがわかったの。人はどう生きたかじゃない。どんな生き方でもいいから、生きていることが、生きている。それだけでかがやいているのよ。女優しかできないから私はこの先も生きてる限りずっと女優をします」。


ブエノスアイレスに父と弟と暮らしていたツキコが、父の「死」後、命を奪われる危険を乗り越えて神戸へ。神戸で働きながら「演劇」に出会い、弟を残して東京へ。その東京で「女優」として名声を得るようになります。

弟はダンサーを目指し、上京。夢破れてアルゼンチンへ戻り、タンゴダンサーへの道を再び歩み始めます。

「大正デモクラシー」の時代背景を反映して、「演劇」への弾圧、反撃、人々の困窮する生活などが描かれ、その中で大人へと成長する姉弟。長編ならではの話の展開。

父の「死」の真実が明らかにされ…、これ以上書けばこれから読もうとされる方の楽しみを奪うことになりますので…。

平易な言葉で読みやすく書かれた作品で、一気に読んでしまいました。どなたにもお薦めできる作品です。
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