2011年3月25日金曜日

人質カノン

宮部みゆきの「人質カノン」(文春文庫)を読みました。
宮部みゆきの短編集を読むのは初めてです。このブログにも紹介した作品がありますが、長編で「はずれ」はありませんでした。

もちろん「読み応え」はありませんが、短編もお薦めできるぐらい気にいってしまいました。

「人質カノン」には表題の短編をいれて7つの作品が収められています。そのうちの3作品は「いじめ」を扱ったもの。どの作品も弱者の視点から描かれ、ただガンバレという直接的なメッセージを発することなく、ホンワカと抱きしめるように包み込む優しさで見守る作品です。

例えば、「八月の雪」では、いじめが原因で交通事故に遭い片足を失った少年がひきこもり状態に陥ってしまいます。その彼が亡くなった祖父の過去を知ることによって、ひきこもりを乗り越えていくさまが描かれています。

「生者の特権」では、飛び降り自殺を図ろうとしていた主人公が、いじめに遭っている少年に偶然会い、彼を励ます行動の中で「これからも生きていく」ことを決意していきます。人との前向きな関わりが、人を励ましていくことが、自分が必要とされていることの実感が、死を決意した主人公自身を変えていきます。

どの作品も、書かれた当時の社会的背景を反映しています。その断片が短編の中に凝縮されていて、長編小説を読んだような錯覚を覚えさせられました。前にも書いたかも分かりませんが、宮部みゆきの作品には「生きる」ことへのエール、特に弱い立場にいる人々への温かいまなざしを強く感じます。
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