2011年3月3日木曜日

かたみ歌

2005年に 「花まんま」で第133回直木賞を受賞した朱川湊人の「かたみ歌」(新潮文庫)を読みました。

例によって、チカコの読んだ本。7編の連作短編集ですが、全てに「幽霊」が登場し、「死」を扱った小説です。

小説の主な舞台となるのは、昭和40年代。東京で珍しく空襲に遭わなかった「アカシア商店街」付近で生活する人々を描いています。

「かたみ歌」というタイトル通り、歌、それも私にとってなつかしい歌がいくつも登場します。「アカシアの雨がやむとき」、「黒ネコのタンゴ」、「いいじゃないの幸せならば」、「圭子の夢は夜ひらく」、「友よ」、「手紙」、「心の旅」…。

「ブルーシャトウ」の替え歌で「森トンカツ、泉ニンニク、かーコンニャク、まれテンプラ…」が登場したときには、私の父(スバラシク音痴で、歌など普段はまず歌うことがありませんでしたし、音楽とは無縁なひとです)が、珍しくこの替え歌を教えてくれたことをなつかしく思い出してしまいました。

私のような年代のものには、歌だけでなく、当時の生活が懐かしくよみがえってくる小説です。

特に惹きつけられたのは「栞の恋」。全編を通じて大きな役割を果たす古書店「幸子書房」で、恋心を募らせる邦子が、あこがれる大学院生が立ち読みする本の「栞(しおり)」がわりに紙をはさみ、それを文通替わりとして心を通わせていくのですが…。

すべてあり得ない話ばかりなのですが、人が生きる、ということを温かい視点で描く作品でした。私より上の世代の方には、特にお薦めです。
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