2011年2月12日土曜日

青春の彷徨

松本清張短編全集6「青春の彷徨」(光文社)を読みました。
全集6は、主に昭和31年前後に書かれた短編9作が収められています。最も印象に残った作品は、最後の「運慶」。

「運慶」はある雑誌に1年間連載した「日本芸譚」という連作の中の1編で、清張自身が「わりと気持ちよく書けたほう」とあとがきに書いています。

運慶が「時代の様式の呪縛」から徐々に解放され、貴族社会から武士社会への変遷とともに自身の作風が受け入れられていくにつれての内面の変化、快慶との見えない確執が見事に描かれています。

小説では、東大寺南大門金剛力士(仁王)像の阿形が快慶、吽形が運慶の作としているのは、歴史的制約上仕方のないことです。(像内から発見された文書から、阿形の大仏師は運慶と快慶、小仏師13人、吽形の大仏師は定覚と湛慶、小仏師12人ということが判明したそうです。)


表題となった「青春の彷徨」は、若い男女が二度にわたって心中を図り、どちらも寸前で思いとどまるという内容で、「表題」とするほどの傑作とは思えませんでした。

表題にふさわしい作品といえば、「運慶」をのぞけば「廃物」がふさわしい? 最期の時を迎える大久保彦左衛門が、自分の生き様を振り返る時代小説。アラ還の私には、時代を超えて彼の苦悶が分かるような気がします。
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